れびゅ 『言の葉の庭』

木内ハジメ(デザイナー、イラストレーター)
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れびゅ 『言の葉の庭』   

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さて、今回のお題は『言の葉の庭』です。
新海誠監督のショートムービー(長編と言うには短いので)ですね。

「雷神(なるかみ)の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」
これの返し歌が、
「雷神(なるかみ)の 少し響みて 降らずとも 我は留らむ 妹し留めば」
これがこの映画の本質ですね。
これ以上を語る必要も無いし、説明も不要なんだと思います。
でも、そういうわけにもいかないので、レビューをしていきたいと思います。

まず、劇中に登場する短歌の解説から。
「雷神(なるかみ)の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」
を、直訳すると
「雨が降ったら、君とここで会えるのに」
となります。
「どうして君に会いたいのか」について語られていないのは、日本人的な奥ゆかしさを感じさせます。
それの返し歌が、
「雷神(なるかみ)の 少し響みて 降らずとも 我は留らむ 妹し留めば」
直訳すると、
「雨が降らずとも、君が望めばここに来るのに」
となります。

うーん。
なんて切ない。
雨なんか関係ない。僕は君と会いたいんだ。
そういう歌です。
それを映画化したのが、この「言の葉の庭」ですね。(本質的な部分でね。原作っていう意味ではないですよ)

あらすじとしては、
歩くことに疲れた社会人と、靴職人を夢見る少年のお話ですね。
比喩表現としての「歩く」と実質的な意味での「歩く」が絡んでいて、それが分かりやすく表現されてるわけです。

それと、新海誠作品には必ずと言っていいほど登場する比喩表現があります。

「鳥が空を飛ぶ」
これが何の比喩なのか、については多分各作品によって変わってくると思うんですが、今回は「靴に縛られない、自由な存在」といったような位置づけでしょうか。
たぶん、新海誠作品は人物が誰かや何かに縛られていて、結局最後まで縛られっぱなしなんだと思います。
だから、その対比として「鳥」が登場するんですよね。

自由の象徴としての鳥。
空を飛べることが当たり前の彼らには「高さ」が怖くないんです。
人間はいくら大きなビルの上に立っても、「高さ」が怖い。
逆に、鳥は歩くのが遅いから、地面に足っているのが怖い。
互いに互いの怖さが有り、自由がある。
ちぐはぐな人間関係も、ヤマアラシのジレンマも、怖さと自由の象徴なんですね。
なんて、文学的に書いてますけど、結局の所、本質的な部分を理解する事は出来ないんだと思います。
表面的な部分しか、観ることも聴くことも出来ない。
だから想像を膨らませていける。
映画ってそういうもの何だと思います。

僕がこの映画から感じたのは、ひたむきに前へ進もうとする強い意志です。
立ち止まっていた登場人物達が再び歩き始めるお話しであり、立ち止まりかけてしまいそうな人間がひたむきに前へ前へと出て行くお話し。

「今まで生きてきて、今が一番、幸せな時かもしれない」

そう思える瞬間が、あれば生きていける。

良い映画だと思います。

ラストシーンの長台詞の応酬も凄いです。

「雪野さん。さっきのは忘れてください。俺、やっぱりあなたの事、嫌いです。
最初からあなたは、なんだか、嫌な人でした。朝っぱらからビール飲んで、訳の分からない短歌なんかふっかけてきて。
自分の事は何も話さない癖に人の話ばっか聞き出して! 俺の事生徒だって知ってたんですよね!?
汚いですよそんなのって! あんたが教師だって知ってたら俺は靴の事なんて喋らなかった!
どうせ出来っこない、叶いっこないって思われるから! どうしてあんたはそう言わなかったんですか!?
子供の言う事だって、適当に付き合えばいいって思ってた!
俺が何かに、誰かに憧れたって、そんなの届きっこない、叶わないってあんたは最初から分かってたんだ!
だったらちゃんと言ってくれよ! 邪魔だって! ガキは学校に行けって! 俺のこと嫌いだって!
あんたは! あんたは一生ずっとそうやって、大事なことは絶対に言わないで、自分は関係ないって顔して、
ずっと一人で生きていくんだ!」
泣きながら抱きつく雪野。
「毎朝、毎朝ちゃんとスーツ着て、学校に行こうとしてたの。でも怖くて。どうしても行けなくて。あの場所で、わたし、あなたに救われてたの!」

脚本を書くときに気を付けることって「一台詞一行以内に収める」ってことなんですよ。
いわば脚本の基礎みたいなもんですね。
でも、僕が脚本を書くときって、これかそれ以上の長台詞になるんですよ。
普通に考えて、感情の吐露がたった1行の台詞に収まるわけないんですよ。
だから僕は、この長台詞が大好きなんです。
長台詞最高!

で、後付けのように言ってしまうのもあれなんですが、この映画、半端じゃなく表現が綺麗なんですよ。
普通、雨の表現っていうのは憂鬱なものになってしまうんですが、この映画はそうじゃない。
物凄く美しく雨を表現しているんです。
梅雨が最高の時間に感じてしまう。
ななかなというより、多分この映画以外にここまで雨を美しく表現している作品ってないのではないでしょうか。
それくらい凄い。見入ってしまう。
こぎみよいカット演出で飽きさせないし、新海誠監督の最高傑作が今作の「言の葉の庭」なんではないでしょうか。

これを観ていない人間はアニメ好きは語れないのではないでしょうか。

そのくらいレベルの高い作品です。

絶対に面白いから、観てみて損はしないと思います。

かなりの長文になってしまいましたね。
次からはもうちょっと短くまとめていけるように頑張ります。

それでは、アデュー!

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